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   ヘプシュッ! 妙なクシャミをしてサンジは覚醒した。

   (寒いな〜〜〜。なんだ??甲板か?)

   頭はガンガン痛むし、視界はグルグル廻っているし、板で寝ていたせいで体もギシギシ痛む。

   周囲を見回すとうっすらと霧がかかっているのがわかった。

   先ほどまでは、綺麗な星空の晴天だったのに、さすがはグランドラインである。

   もっと目を凝らして見ると、看板の隅で壁を背もたれにして、座位で眠っているゾロの姿があった。

   腕組みして眉間にシワを寄せ岩のように動かないその姿は、仏像に良く似ていた。

   (何だ?寝ながら修行中か?良くこの体勢と寒さで熟睡できるよな〜さすが腐れ腹巻だぜ)

   変な感心をしたサンジだったが、やはり起こした方が良さそうなのでゾロに声をかけてみた。

   「お〜い、クソ剣豪!起きね〜と海にまた蹴り落とすぞ〜〜!オロされて〜のか、こら!」

   一緒に攻撃も入れようかと思ったが、誕生日に2度も蹴られるのも不憫だったので止めておいた。

   (まあ〜雪の中で寝ても死なね〜男だからな。霧で凍死はね〜だろ)

   (絶交は、明日っからにしておいてやるぜ!)

   サンジは自分の上着を脱ぐと、ゾロの身体を覆うようにしてかけてやった。


   それから、腕時計に目を走らせた。

   (残り30分チョイってトコロか?まあ〜ギリギリだな)

   サンジはふらつく足取りで厨房へ行くと、それから30分きっかりで戻ったきた。

   手には、白い生クリームがたっぷりかかった、直径20センチほどの丸いケーキがあった。

   その上には<ハッピーバースデー>と書かれてあった。

   サンジはどうしてもゾロに<バースデーケーキ>を作りたかったのだ。

   料理人としても、相手に自分の料理を味わってもらえないのは辛い。

   それ以上に、サンジが気になった事は、自分がゾロの誕生日をまだ祝っていない事だった。

   面と向かって「おめでとう」と言う言葉は、サンジにはとても言えない気がする。

   (オレに言われても、奴も嬉しくはね〜だろうしな)

   11月11日が後5分で終了する。



   「お〜い、ゾロ。コレはてめ〜の分だからな。さっきルフィに食われちまっただろ?

   死ぬほど酒好きみたいだからな〜しこたまブランデー効かせてやったぜ。

   コレはてめぇ〜にやるから好きにしろ! 食わないで人にやっても、そりぁ〜自由だ。

   だが、捨てたりしたら、ぶっ殺すからな!!」

   そう言うとケーキをゾロの足元に置き、踵を返し、男部屋に戻ろうと歩き出した。

   まるで、宇宙遊泳のようにサンジの身体はユラユラと揺れていた。急速に酔いと眠気が襲う。

   ケーキ作りに精神力を使い果たし、酔っ払いサンジは心身とも燃えカスになっていた。


  「オレは捨てたりしね〜ぞ?」

   そう声が背後ですると、次の瞬間、サンジの右手が強く引っ張られた。

   「うわわわわ〜〜〜〜!」

   酔ってふらつく足はその動きについていけない。慣性の法則と重力には逆らえず、

   サンジは右斜め後ろにバッタリと倒れて行った。

   床板にぶち当たる前に反射的にもがいたサンジは、右手と右頬と胸元にグッチャリとした

   とても嫌な感触を味わった。それは考えたくも無い事実を物語っている。

   踏まれた蛙のように腹ばいになっていたサンジが、意を決して起き上がると、予想通り。

   サンジが渾身の想いを込めて作ったケーキが、自分の身体の下で押しつぶされていた。

   「何してくれるんだよ!てめぇ〜は!」

   サンジのヒステリックな叫びは泣き声に近かった。生クリームに塗れた顔やブルーのシャツは

   少しコミカルだったが、笑う人間はいないと思われる。

   「ああ??お前、上着忘れてるぞ」


   

                                  
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